投球動作のメカニズム

投球動作は一般的に、ワインドアップ、コッキング、アクセレレーション、フォロースルーまでの4つのフェーズに分けられます。

 

      ピッチャーのイラスト(女性)

 

コッキングフェーズは踏み出し足の着地によってアーリーコッキング期とコッキング期に、フォロースルーはボールリリース直後を減速期と呼び、残りのフォロースルーと区別すると6つのフェーズに分けられます。

 

一方、これらの動作は大きく下肢の並進運動および上体の回転運度と腕の振りに大別されますが、下肢の並進運動はワインドアップからレイトコッキングで、上体の回転運動と腕の振りはレイトコッキング以降に行なわれます。

 

これらのうち、上体と腕の動作は肩甲骨と胸郭の柔軟性と肩甲骨の柔軟性が特に重要となります。アーリーコッキング期で腕がトップポジションの位置に入ってからは、下肢体幹肩甲帯など中枢側の動きで腕はむしろ受動的にMER(maximum external rotation)に導かれ、これ以降も体幹と下半身のリードのまま溜められたパワーがボールリリースで一気にボールへ伝えられます。

 

この一連の動きの中で、肩甲帯は上腕骨の動きに合わせて動き、上腕骨の関節窩への求心性を保つ必要があり、この身体機能が投球動作においてきわめて重要なポイントとなります。この肩甲骨の動きは、胸郭の形状と柔軟性に左右されるため、肩甲胸郭関節の維持は野球選手にとって生命線といえます。

 

加速期におけるMERからボールリリースにおいては、上腕骨の回旋平面と肘関節の伸展平面が同一平面上にあるsingle planeが理想とされます。これは、肩や肘に負担がかかりにくいだけでなく、正面から見るとボールリリース前に肘から抹消が見えないため、打者からもボールの出所が見えにくく打ちにくいフォームといえます。これを達成するためには胸郭と肩甲骨の可動性が不可欠です。

 

一方、肩甲骨と胸郭の可動性が不十分な場合、両者は同一平面上にはならないため、加速期からボールリリースにかけて、肘関節が急激に伸展される際に、single planeではほとんど必要のない肩甲上腕関節の内旋動作(急激な内旋運動)を無意識に行ってボールの出る方向を修正する動き(いわゆる腕の横ぶり)が入るため肩甲上腕関節や肘関節にさまざまなストレスをもたらします。具体的には肘関節では外反ストレスが増大し、内側障害、小頭障害、後方障害が起こります。

 

加速期の肩甲上腕関節の過剰な内旋運動により減速期での遠心性筋収縮の強制により、棘下筋委縮(腱板損傷)や関節唇損傷が起きます。また加速期で大胸筋優位の動きになるため、肩甲上腕関節に剪断力が働き骨頭の求心性が不良となり関節唇損傷の原因ともなります。

 

大胸筋優位な運動のリスクは同じ内旋作用を持つ腱板である肩甲下筋の筋出力が低下するためにフォロースルーでの上腕骨の内旋不足が起こり、肘頭がロックしやすくなることで肘頭疲労骨折などの肘頭障害の大きな要因となります。

 

ボールリリースからフォロースルーにかけての上腕骨の内旋や前腕の回内は、投球動作後半における体幹回旋などによる受動的な自然な動きです。しかしながら、肩甲胸郭関節の可動性が不十分な場合に誘発される加速期からボールリリースまでの間に起こる早期の過剰な肩甲上腕関節の内旋運動(結果的に上腕骨が内旋する)は障害のリスクとなります。同じ上腕骨内旋運動でも両者は異なり、何が肩関節にストレスになるかを理解する必要があります。